大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和33年(行)3号 判決

原告 松村はな

被告 横浜中税務署長

訴訟代理人 河津圭一 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が昭和三十二年十月二十九日付でなした原告の昭和和三十一年度分所得税の総所得金額を金五十八万千三百十一円と更正した処分のうち金二十二万八千八百三十六円を超える部分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、原告は、美容院の経営を業としているものであるが、昭和三十二年三月十五日被告に対し昭和三十一年度分所得税の確定申告として青色申告書により総所得金額を金二十二万八千八百三干六円と申告したところ、被告は昭和三十二年十月二十五日右原告の青色申告の承認を取消した上同月二十九日付で右金額を金五十八万千三百十一円に更正する旨の処分を行いその頃その旨原告に通知した。原告は、これに対し所定の期間内に被告に再調査請求をしたが被告はこれを棄却したので、更に所定の期間内に東京国税局長に審査請求をしたが同局長は昭和三十三年四月十四日付でこれを棄却し翌十五日その旨原告に通知した。しかしながら、原告の昭和三十一年度中の収入金額は金百十二万五千百円であり、これよりその仕入原価金十万六千二百七十五円及びその他の経費金七十八万九千九百八十九円の計金八十九万六千二百六十四円を差引いた金二十二万八千八百三十六円が係争年度中の原告の所得金額である。したがつて、被告の前記更正処分中右金額を超える部分は原告の所得を過大に認定した違法があるからその取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、

被告の答弁に対し、被告の主張事実中、原告が係争年度分所得税につき、被告主張(事業所得の計算表中、原告申告の金額欄参照)、のとおりの確定申告をしたこと、原告の同年度、期首期末各たな卸、公租公課、水道光熱費、旅費通信費、広告宣伝費、火災保険料、修繕費、消耗品費、燃料費、会費、事務費、雑費、雇人費、減価消却費及び地代の適正金額がそれぞれ被告主張(同表中被告主張の金額欄参照)のとおりであること、原告記帳の、期首期末各たな卸、一月、二月、四月ないし七月、九月ないし十二月仕入及び返品の各本数がそれぞれ被告主張(コールド液仕入使用表参照)のとおりであること、原告記帳のコールドパーマ容扱人員それによる収入金、それ以外の容扱による収入金、原告方の女子家族及び従業員数がそれぞれ被告主張のとおりであることは、いずれもこれを認めるが、その余の事実は否認する。原告の記帳によれば、コールド液仕入本数は三月仕入百三十二本、八月仕入十二本(十二本貸与)、仕入計千八十四本(内返品六十本、貸与十二本)、譲渡分二十四本である。又、被告が一月分として主張する近藤商店よりの仕入脱漏本数七十二本は三月分百三十二本中に含まれているのであり、伊藤商店よりの仕入十八本商品見本二十四本の計が一月分四十二本を示すものであると答えた。

立証〈省略〉

被告指定代理人等は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、原告が美容院の経営を業としているものであること及び原告が被告に対し青色申告書により昭和三十一年度分所得税の確定申告をしてから東京国税局長の審査棄却の通知が原告になされるまでの間の経緯がいずれも原告主張のとおりであることはこれを認めるが、その余の事実は否認する。以下に述べるとおり係争年度中における原告の総所得は金九十一万八千七百八十九円であるから右金額の範囲内でなされた本件更正処分は適法である。すなわち、

原告は、係争年度分所得税につき青色申告書によりその主張のとおり内容の確定申告をした。しかし、被告が調査したところ、原告備付の帳簿書類には多くの記載脱漏及び不一致があり、そのためにその記載事項の全体についてその真実性が疑わしかつた。そこで、被告は、先ず原告の青色申告の承認を取消した上、自らの調査の結果に基き本件更正処分をしたものである。被告の主張する原告の係争年度分所得金額の計算の根拠は次の表のとおりである。

事業所得の計算表〈省略〉

右事業所得の計算表中、被告主張の収入金及び仕入金額の計算の根拠は次のとおりである。

一、収入金金百六十四万千七百九十八円の内訳

1、コールドパーマ客扱による収入金金七十四万六千百七十二円

原告の記帳によれば係争年度中のコールドパーマの客数九百人に対する収入金が計金五十一万七百五十円であるから、原告方のコールドパーマ客一人当りの収入金は金五百六十七円となる。そして、右年度中に原告方で使用したコールド液はこれを八十CC入りの小瓶に換算すると次表のとおり千百九十四本となる。

コールド液仕入使用表

原告記帳の本数 脱漏本数 計(被告主張の本数)

期首たな卸      一四    -        一四

一月仕入       四二   七二       一一四

二月仕入       四八    -        四八

三月仕入      一三八    -       一三八

四月仕入      一八〇    -       一八〇

五月仕入       一二    -        一二

六月仕入       三六    -        三六

七月仕入      一五六  一〇二       二五八

八月仕入       一二    -        一二

九月仕入      一六八    -       一六八

十月仕入      一〇八    -       一〇八

十一月仕入     一二〇    -       一二〇

十二月仕入      七〇    -        七〇

仕入計     一、〇九〇  一七四     一、二六四

期末たな卸      二〇    -        二〇

使用量     一、〇八四    -     一、二五八

返品分        六〇    -        六〇

譲渡分         四    -         四

差引使用量   一、〇二〇    -     一、一九四

右表のうち、一月分計の内訳は近藤商店より七十二本、伊藤商店より十八本、商品見本として二十四本の計百十四本であり、七月分計の内訳は伊藤商店よりの二百五十八本である。なお、被告が、その管内の美容業者であつて係争年度当時原告と同様青色申告をしていた者のうち、営業規模等の点において原告と類似している三十人の業者につき調査した結果によるとコールド液小瓶一瓶当りの客扱数の平均は一・一二八人となつている。したがつて、前記原告の使用したコールド液千百九十四本に右一・一二八人を乗ずると右コールド液による仕上人員は千三百四十六人となる。又、右調査の結果によれば美容業者の女子家族及び従業員の年間一人当りのコールドパーマ施用回数は平均三・八七回であるから、これに当時の原告方の女子家族及び従業員計の七・六六人を乗ずると営業外コールドパーマ仕上人員が三十人となる。したがつて、前記コールドパーマ仕上人員千三百四十六人から右三十人を差引いた千三百十六人がコールドパーマ容扱数となり、これに前記コールドパーマ客一人当りの収入金五百六十七円を乗じたものが前記のコールドパーマ客扱による収入金七十四万六千百七十二円である。

2、コールドパーマ以外の客扱による収入金 金八十七万九百十二円

原告記帳の総収入は金百十二万五千百円であり、そのうちコールドパーマ客扱による収入は金五十一万七百五十円でその他の客扱による収入は金六十一万四千三百五十円であるからコールドパーマ以外の客扱による収入金のコールドパーマ客扱による収入金に対する割合は一・二となる。したがつて、前記コールドパーマ客扱による収入金七十四万六千百七十二円に右一・二の割合を乗じたものが右コールドパーマ以外の客扱による収入金である。

3、雑収入金 二百二十円

原告申立の同業者に譲渡したコールド液小瓶四本分の代金(但し単価は原告の仕入単価中低き一本金五十五円に基き算出したもの)である。

右1、2、3、の各収入金の合計額が頭書の収入金である。

二、仕入原価 金十一万四千八百五十五円の内訳

1、期首たな卸金三千七百六十円

2、仕入金額 金十一万四千七百九十円

原告記帳の仕入金額は金十万六千二百十円であるが、右記帳には前記一、記帳のとおりコールド液百七十四本の記帳脱漏があり、そのうち一月の二十四本は見本として贈与を受けたものであるから差引百五十本の仕入計上漏があることとなり、それに対応する一月の脱漏分単価金六十円のもの四十八本金二千八百八十円、七月の脱漏分単価金六十円のもの十八本単価金五十五円のもの八十四本計金五千七百円の合計金八千五百八十円を加算すると金十一万四千七百九十円となる。

3、期末たな卸 金三千六百九十五円

右1、2の合計から3、を差引いた金額が頭書の仕入原価である。

以上により明かなとおり係争年度における原告の所得は金九十一万八千七百八十九円であるから右金額の範囲内でなされた本件更正処分に何等違法の点はないと述べた。

立証〈省略〉

理由

原告が美容院の経営を業としているものであり、昭和三十二年三月十五日被告に対し昭和三十一年度分所得税の確定申告として青色申告書により総所得金額を金二十二万八千八百三十六円と申告したところ、被告が同年十月二十五日右青色申告の承認を取消した上、同月二十九日付で右金額を金五十八万千三百十一円に更正し、その頃その旨原告に通知したこと及び右更正処分に対し原告が所定の期間内にそれぞれ再調査請求並びに審査請求をしたが、右審査請求が昭和三十三年四月十四日付で棄却され翌十五日その旨原告に通知されたことはいずれも当事者間に争がない。

そして、原告が右係争年度分所得税の確定申告として、被告主張の事業所得の計算表中、原告申告欄記載のとおりの金額の申告をしたことも当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証の一ないし三百六十五(但し同号証の三十六は欠番)、第二号証中には原告申告にかかる収入金の内訳を示す記載があり、又証人松村誠八の証言中にも右申告内容に添う証言があるが、他方、証人柿内実茂の証言により成立を認めうる乙第七号証の一、二、同証人及び証人長尾斐雄の各証言によれば、原告はコールドパーマを中心とする業者であり、それ使用するコールド液の消農量が原告方のコールドパーマ客扱数、したがつてコールドパーマ客扱による収入金に直接関係するものであること、しかるに、昭和三十二年十月当時の被告税務署の係員であつた訴外柿内実茂が前記原告の確定申告に際しその帳簿書類等を調査したところ原告記帳の仕入コールド液に相当量の記帳漏の存することが判明したこと及び昭和三十三年二月頃東京国税局協議団本部横浜支部の協議官である訴外長尾斐雄が前記審査請求の際東京国税局長の諮問に応ずるため調査した結果によつても収入伝票に計上してある金額より多額のものが現金出納帳に記入されたり等していて原告備付の帳簿書類相互間に不一致のあることが判明したことを認めることができ、右認定を妨げるに足る証拠はない。そして、右認定の事実をもつてすれば前記甲号証をも含めた原告備付の帳簿書類はその全体が真実性を疑うに足るものというべきであるから、被告が原告の青色申告の承認を取消した上自らの調査に基き原告の所得を推計した措置は相当といわざるをえない。

そこで、先ず、係争年度中に原告の使用したコールド液の本数につき検討するに、期首たな卸十四本、二月仕入四十八本、四月仕入百八十本、五月仕入十二本、六月仕入三十六本、九月仕入百六十八本、十月仕入百八本、十一月仕入百二十本、十二月仕入七十本及び期末たな卸三十本であることはいずれも当事者間に争がなく、被告は、一月仕入は伊藤商店からの仕入十八本、商品見本として二十四本合計四十二本の外、近藤商店からの仕入七十二本があり又三月仕入は合計百三十八本であり、七月仕入は原告記帳の百五十六本の外百二本の脱漏がある、八月仕入は十二本であつたと主張するところ、一月仕入中伊藤商店からの仕入十八本及び商品見本二十四本合計四十二本三月仕入中百三十二本及び七月仕入中百五十六本についてはいずれも当事者間に争がないけれども、証人中原敏夫の証言により成立を認めうる乙第一号証によれば、原告は一月中に近藤商店から六打(七十二本)の仕入をしたが、その代金の支払をしなかつたので、近藤商店は三月中に再度請求書を作成してその請求をしたことが明かであるから、この分は後に三月仕入として計算されたものと認めるのが相当であり、乙第七号証の二及び証人柿内実茂の証言中一月仕入に関する部分は採用できない。他に、一月仕入につき被告主張の脱漏のあつたこと又は三月仕入中当事者間に争がない本数を超過する部分については之を認めるに足る証拠はない。又、成立に争がない乙第八号証証人中原敏夫の証言により真正に成立したと認めうる同第三号証の一、二、証人柿内実茂の証言により真正に成立したと認めうる同第七号証の二(八月仕入に関する部分)及び証人柿内実茂の証言(一部)によれば、七月仕入は伊藤商店から合計二百五十八本で原告の主張には百二本の脱漏があり、八月仕入は十二本であることを認めることができる。乙第七号証の二及び証人柿内実茂の証言中右認定と異る部分は採用しないし、他には右認定を動かすに足る証拠はない。そこで、右各月の仕入本数を合計すると係争年度中の仕入コールド液は千百八十六本となることが計算上明かであり、なお右仕入コールド液中六十本の返品のあつたことは当事者間に争がなく、原告は右仕入コールド液中二十四本を他に譲渡したと主張するところ、原告がその中四本を他に売却したことは当事者間に争がないけれども、それ以上の数量が他に譲渡された事実は、之を認めるに足る証拠はない。したがつて、係争年度中に原告の使用したコールド液は、右仕入千百八十六本に期首たな卸十四本を加えた計千二百本から期末たな卸二十本、返品六十本、売却分四本をそれぞれ差引いた千百十六本となることが計算上明かである。

次に原告が、右千百十六本のコールド液を使用して挙げえた収入金につき考察するに、成立に争のない甲第三号証、証人吉田仁吉及び同深井安児夫の各証言によれば、もともとコールド液小瓶一本はそれをコールドパーマ客一人に対し消費するのに適当な分量として製造販売されているものであること、全日本美容業環境衛生同業組合連合会のなした全国的調査にもコールドパーマ客一人に対しコールド液小瓶一瓶が必要であるとの結果が現われたこと、又、コールド液の使用量は毛髪の長短、立地条件、技術の巧拙等によつて異るものであるところ、原告の店舗はバー等に近く美容の流行が花柳界から始まつて一般に及ぶのが通常である上昭和三十年頃から長髪が流行し始めたこと等を認めることができ、かような事情から考えるとコールド液小瓶一瓶当りの原告方の客扱数は一人であると認めるのが相当であり、乙第六号証及び証人中原敏夫の証言中右認定と異る部分は採用しない。したがつて、係争年度における原告方のコールドパーマ仕上人員はコールド液の使用本数と同じ干百十六人であるというべきである。ところで、右年度における原告方の女子人員が七・六六人であることは当事者間に争がなく、又前記乙第六号証、証人松村誠八の証言及び原告本人尋問の結果によれば右女子が一年間にかける営業外コールドパーマは一人当り三・八七回であることを認めることができ(証人深井安児夫の証言中右認定に反する部分は信用しない)、したがつて、係争年度における原告方の営業外コールドパーマ仕上人員は右七・六六人に三・八七回を乗じた三十人(二九・六四四二人を切上げたもの)となることが計算上明かである。それ故、右年度中における原告方のコールドパーマ客扱数は前記千百十六人から右三十人を差引いた千八十六人となることが明かである。そして、コールドパーマ客数九百人に対する収入金が金五十一万七百五十円であることは当事者間に争がないから、コールドパーマ客一人当りの収入は金五百六十七円(円未満は切捨)となることが計算上明かであり、したがつて、係争年度における原告方のコールドパーマ客扱による収入金は前記コールドパーマ客扱数干八十六人に右金五百六十七円を乗じた金六十一万五千七百六十二円となることが計算上明かである。

次に、コールドパーマ以外の客扱による収入金につき考えるに成立に争のない甲第一号証の一ないし三百六十五(但し同号証の三十六は欠番)、証人松村誠八の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告方においては日日の収入を原告又はその娘等がコールドパーマ客扱による収入もそれ以外の客扱による収入も一枚の伝票に同一方法で記帳して来たことを認めることができ、右事実から考えると特にコールドパーマ客扱による収入についてのみ記帳漏が存する等特段の事情の認められない限り、それ以外の客扱による収入についてもコールドパーマ客扱による収入と同じ割合による記帳漏が存すると推認するのが相当であるところ、本件においては右のような特別の事情を認めるに足る資料はない。そして、原告記帳の総収入が金百十二万五千百円でその内コールドパーマ客扱による収入が金五十一万七百五十円でそれ以外の客扱による収入が金六十一万四千三百五十円であることは当事者間に争がなく、したがつて、コールドパーマ以外の客扱による収入のコールドパーマ客扱による収入に対する割合は一・二(少数点二桁以下は切捨)となることが計算上明かである。それ故、係争年度におけるコールドパーマ以外の客扱による原告の収入は前記コールドパーマ客扱による収入金六十一万五千七百六十二円に右一・二を乗じた金七十三万八千九百十四円(円未満は切捨)となるものというべきである。

なお、原告が係争年度中にコールド液四本を同業者に売却したことは前認定のとおりである上、前記乙第三号証の一、二によればコールド液一本の仕入単価が金六十円と金五十五円であることを認めることができるから、右売却分を右安き単価に見積つて計算してもそれによる収入は金二百二十円となることが明かである。

以上によれば、原告の係争年度中における総収入はコールドパーマ客扱によるもの金六十一万五千七百六十二円、それ以外の客扱によるもの金七十三万八千九百十四円及びコールド液売却によるもの金二百二十円の三者を合計した金百三十五万四千八百九十六円となることが計算上明かである。

次に、原告の仕入原価につき検討するに、原告記帳の仕入金額が金十万六千二百十円であることは当事者間に争がなく、又係争年度中に原告の仕入れたコールド液が千百八十六本であることは前認定のとおりであり、前記乙第一号証、第二、第三、第七号証の各一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告の記帳には七月百二本の記帳漏があるが、そのうち単価金六十円のものが十八本、同金五十五円のものが八十四本(計金五千七百円)であることを認めることができ、したがつて係争年度中の原告の仕入金額の合計は前記金十万六千二百十円に右金五千七百円を加えた金十一万千九百十円となることが計算上明かである。そして、期首たな卸が金三千七百六十円、期末たな卸が金三千六百九十五円であることは当事者間に争がないから右年度における原告の仕入原価は右金十一万千九百十円に期首たな卸金三千七百六十円を加えた金額から右期末たな卸金三千六百九十五円を差引いた金十一万千九百七十五円となることが計算上明かである。

なお、係争年度における原告の経費のうち、専従者給料を除く各経費の適正額が被告主張のとおりであることは当事者間に争がなく、したがつて、右経費の合計が金六十万八千百五十四円となることは計算上明かであり、又、原告が経費として計上している専従者の給料金十六万円は、所得税法第十一条の二、第二十六条の三第十項によれば青色申告の承認を受けている納税者に対してのみ特に認められるものであり、右承認を取消された者は最早やそれを経費として算入しえないことが明かであるところ、原告が青色申告の承認を取消されたことは前記のとおりであるから、右金十六万円は経費として算入しえないといわざるをえない。

以上の事実によれば、係争年度中における原告の所得は前記収入金百三十五万四千八百九十六円から仕入原価金十一万千九百七十五円及び経費金六十万八千百五十四円合計金七十二万百二十九円を差引いた金六十三万四千七百六十七円となることが計算上明かである。したがつて、右金額の範囲内で原告の所得を金五十八万千三百十一円と更正した被告の本件更正処分は適法であつて右処分に違法の点はないから、これが取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾巌 三和田大士 浅香恒久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例